KINOの雑な映画鑑賞記録 

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徹底してドライな潜入捜査もの:『ドラッグ・ウォー 毒戦』

ジョニー・トー監督の『ドラッグ・ウォー 毒戦』(2012)をAmazonプライムで観た。

監督の50作目の作品である。

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物語は、麻薬製造工場の爆発事故から逃れた車が中華料理店に突っ込むところから始まる。麻薬ディーラーであり、香港人のテンミン(ルイス・クー)は搬送された病院で中国公安警察の麻薬捜査官、ジャン警部(スン・ホンレイ)によって逮捕される。中国刑法により、テンミンは死刑となるはずだったが、死刑を逃れるため、テンミンはジャン警部に捜査協力を願い出る。麻薬製造密売組織を取り締まるべく、ジャン警部とテンミン2人は組織に架空の取引を持ちかけるのだが...

 

潜入捜査官ものであり、テンミンとジャン警部という敵対する2人が捜査を通じて、互いに心を通わせ合うバディものになるかと思いきや、本作では2人の関係性は最後まで非常にドライなままである。そこには信頼や友情といった「情」は一切ない。

なぜ、テンミンがジャン警部に捜査協力するのかというと、死刑を逃れるためである。劇中、ジャン警部が拘束したテンミンに対して「50グラム以上の覚醒剤製造者は死刑」(中国刑法347法)だと告げることで捜査協力をするよう誘導する場面がある。中国の法律では違法薬物の密輸、販売、製造などを犯罪行為として厳しく処罰している一方、使用行為は犯罪としていない。

この香港人のテンミンという人物は、最も生に固執した人物として描かれていて、死刑を逃れるために、ジャン警部の捜査に協力するのだがが後に裏切ったり、しまいには生き残るためなら仲間さえも裏切るのだ。

本作は、ジョニー・トー監督としては初めて全編を中国大陸で撮影し、中国の公安を扱った作品である。そのため監督自身がインタビューでも明かしているように中国で厳しい審査を受ける必要があった。

 

「公安に関するストーリーに関しては、二つの審査を通らないとならない。まず公安の人が観てOKをもらう必要がある。公安に対して不正確なことを言っていないか。イメージを壊すようなことがないかをチェック。そういう事情があるので、今まで大陸で警察に関する映画は撮ってこなかった。」

http://www.cinemajournal.net/special/2014/drug_war/index.html

ここで、香港人のテンミンと中国公安警察のジャン警部との間に全く信頼関係が生まれないことや、「生きること」 に固執するテンミンの必死さには物語以上の中国と香港の関係が見えてくるような気がする。

これについてはこの記事を読むとより参考になる。↓

www.cinra.net

ちなみに、劇中の麻薬工場が作っている麻薬が袋詰めされるところが映るが、その麻薬が氷のような形をしているのでもしかしたら覚醒剤の仲間で見た目が氷に似ていると言われる「氷毒(エフェドリン)」を作っているのかなと思った。